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東京地方裁判所 平成10年(行ウ)83号 判決 1999年5月26日

アメリカ合衆国〇三〇五三ニューハンプシャー州

ロンドンデリーデルタ・ドライブ九番

原告

ダイアタイド・インコーポレイテッド

右代表者

リチャード・ティー・ディーン

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

東京都千代田区霞ヶ関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

右指定代理人

齋藤紀子

白井ときわ

清水直子

笛木秀一

"

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

原告の国際出願PCT/US九四/〇六二七四(平成七年特許願第五〇二八五〇号)に関して、原告が平成八年一月一六日付けで提出した特許法一八四条の四第一項による翻訳文及び同法一八四条の五第一項による書面について、被告が平成八年五月七日に行った不受理処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、特許協力条約に基づく外国語でされた国際特許出願に関して、原告が提出した特許法(以下、単に「法」という。)一八四条の四第一項による翻訳文及び法一八四条の五第一項による書面について、被告がした不受理処分が違法であるとして、原告がその取消しを求めた事案である。

一  前提となる事実(証拠を示した事実を除き、争いはない。)

1  一九九四年(平成六年)六月三日、原告は、米国特許商標局に対し、国際特許出願PCT/US九四/〇六二七四号(平成七年特許願第五〇二八五〇号。以下「本件国際出願」という。)をした。

その際、原告は、本件国際出願願書の第Ⅵ欄優先権主張に係る出願日欄に、米国特許出願〇七/九〇二、九三五号(以下「A出願」という。)について「一九九二年六月二三日」と、PCT/US九三/〇六〇二九号(以下「B出願」という。)について「一九九二年六月二三日」と、米国特許出願〇八/〇九二、三三五号(以下「C出願」という。)について「一九九三年七月二五日」と記載した。

出願日の記載については、B出願につき「一九九三年六月二三日」の、C出願につき「一九九三年七月一五日」の、それぞれ誤記であった(なお、A出願は正しい。)。

2  一九九四年(平成六年)七月一一日、米国特許商標局は、原告に対し、本件国際出願の願書のC出願の出願日が「一九九三年七月二五日」とあるのをPCT実施細則第三二七号により職権で「一九九三年七月一五日」と訂正し、その旨通知した。

また、右同日、米国特許商標局は、原告に対し、本件国際出願の願書におけるA出願の出願日の記載「一九九二年六月二三日」及びB出願の出願日の記載「一九九二年六月二三日」は、本件国際出願の国際出願日(一九九四年六月三日)前一年以内の日でないとして「優先日訂正または優先権主張抹消命令書」を送付した。

3  一九九四年(平成六年)八月五日、原告は米国特許商標局に「優先日訂正または優先権主張抹消命令書」に対する応答書(以下「本件応答書」という。)を送付し、米国特許商標局は、右同日、国際事務局は一九九四年(平成六年)八月三〇日に、それぞれ受領した。本件応答書には、A出願に基づく優先権主張を抹消し、また、B出願の出願日を「一九九三年七月一五日」と訂正する旨の記載がある。

4  一九九四年(平成六年)八月二五日、米国特許商標局は、原告に対し、A出願に基づく優先権主張を出願人の求めにより抹消した旨通知した。

5  一九九四年(平成六年)八月五日、米国特許商標局は、B出願に基づく優先権主張について、B出願の出願日を一九九三年六月二三日と訂正し、その後、右願書(第五用紙)の差替え用紙を国際事務局に送付した。

国際事務局は、右差替え用紙を、一九九四年九月一二日に受領したが、優先権主張欄の出願日に一部抹消線が引かれ、B出願の出願日が一九九三年六月二三日と変更されていることから、趣旨を明確にするため米国特許商標局あてに照会をした。

一九九四年(平成六年)一〇月一八日、国際事務局は、米国特許商標局から、右出願日は一九九三年六月二三日と訂正すべきである旨の確認を受領した。そこで、国際事務局は、B出願の出願日を一九九三年六月二三日に訂正し、原告及び国際調査機関に対し、出願人の請求によって右のように訂正した旨の通知を一九九四年一〇月二五日に発送し、そのころ原告はこれを受領した。(乙一一)

6  一九九五年(平成七年)一月三〇日、原告は、欧州特許庁に対して国際予備審査請求書を提出し、同年二月一日、欧州特許庁はこれを受理した。

7  一九九六年(平成八年)一月一六日、原告は、被告に対し、本件国際出願に関し、法一八四条の四第一項による翻訳文(以下「本件翻訳文」という。)及び法一八四条の五第一項による書面(以下「本件国内書面」という。)を提出した。

8  一九九六年(平成八年)五月七日、被告は、本件翻訳文について「優先日より二〇か月経過後の提出であるため」、また、本件国内書面について「翻訳文が不受理のため」として、不受理処分(以下「本件不受理処分」という。)をし、同月三〇日、原告は、これを受領した。

9  平成八年七月二六日、原告は被告に対し、本件不受理処分について、行政不服審査法による異議申立てをしたが、平成一〇年二月九日、被告は、右異議申立てを却下する決定をし、同月一二日、原告は、これを受領した。

二  争点

1  訴えの利益の存否

(被告の主張)

本件国際出願についての優先日は一九九三年(平成五年)六月二三日である。原告が本件翻訳文を提出したのは国内書面提出期間(平成七年二月二三日まで)経過後であるから、法一八四条の四第三項により、本件国際出願は取り下げられたものとみなされる。したがって、仮に、本件不受理処分が取り消されたとしても、原告の提出した本件翻訳文及び本件国内書面を本件国際出願についての法一八四条の四第一項に規定する翻訳文及び法一八四条の五第一項に規定する書面とする余地はないので、本件訴えは訴えの利益を欠き、不適法なものである。

2  本件不受理処分の適法性

(被告の主張)

特許法一八四条の四第一項、三項によれば、外国語でされた国際特許出願の出願人は、特許協力条約所定の優先日から一年八月(優先日から一年七月以内に国際予備審査の請求をし、かつ日本国を選択国として選択した国際特許出願にあっては、優先日から二年六月、以下「国内書面提出期間」という。)以内に、翻訳文等を被告に提出しなければならず、右期間内に翻訳文等の提出がされなかった場合には、その特許出願は取り下げられたものとみなされる。

本件国際出願についての優先日は、以下のとおり、B出願の出願日である一九九三年(平成五年)六月二三日というべきである。

原告が国際予備審査の請求をしたのは、一九九五年(平成七年)二月一日であり、優先日から一年七月以内である一九九五年一月二三日より後の日である。そうすると、本件国際出願の国内書面提出期間は、B出願の出願日である一九九三年(平成五年)六月二三日から一年八月後の一九九五年(平成七年)二月二三日となる。ところで、原告が本件翻訳文を提出したのは、国内書面提出期間経過後である平成八年一月一六日であるから、その特許出願は取り下げられたものとみなされるため、これを理由として、被告が、本件翻訳文及び本件国内書面についてした不受理処分に違法はない。

(一) 原告は、本件応答書において、先の出願の出願日を誤って「一九九二年六月二三日付けで出願された米国出願番号〇七/九〇二、九三五の優先権主張を抹消し、先の出願である一九九三年七月一五日付けで出願されたPCT/US九三/〇六〇二九及び一九九二年六月二三日付けで出願された米国出願番号〇八/〇九二、三三五がPCT第八条の規定を満たす申立てである旨を主張します。」としている。原告の意図は、先の出願Aに基づく優先権主張は抹消するが、B出願及びC出願に基づく優先権主張を申し立てるとするものと解すべきである。さらに、本件応答書下段には、「もし審査官がこの応答についてさらに連絡が役立つとお考えなら、……下記署名の代理人に電話をしてください。(原告訳)」と記載しており、右記載によれば、有効な回答がされない場合、米国特許商標局が直ちに優先権主張の申立てを抹消することを期待するものとは解されず、むしろ、もし本件応答が不十分であるならば、さらに訂正の機会を与えて又は許可して欲しいと上申しているものと解される。

特許協力条約に基づく規則(以下単に「規則」という。)四.一〇dは、優先日の抹消(訂正)の求めの日から一か月以内に出願人がその求めに応じなかった場合には、職権によって抹消するとしているが、本件のような場合に、米国特許商標局が直ちにこれを職権によつて抹消しなければならないとするのは適当ではないし、さらに本件応答書の下段の記載を考慮すれば、職権によって抹消することが原告の合理的意思に合致するとも解されない。

規則九一.一は、国際出願又は出願人が提出した書類中の明白な誤りはこれを訂正することができると規定し、他方、規則四.一〇bは、先の出願の日付の訂正に関して規定し、優先権主張の基礎となる先の出願の日付の誤りが、その先の出願と比較して明白である場合には、その正確な優先日に基づいて計算された規則一七.一aに定める期間を経過する前に限り、明白な誤りとみなしてこれを訂正することができると規定している。右各規定を考慮すれば、本件応答書のように不十分な回答がされた場合、米国特許商標局が直ちに優先権主張の申立てを職権で抹消しなければならないものではない。

米国特許商標局が、B出願の出願日を訂正した措置に違法はない。

(二) 原告は、最先の優先日はC出願の出願日である一九九三年七月一五日であると信頼していたので、その信頼は保護に値する旨主張する。

しかし、以下の事実に照らせば、右主張は失当である。

原告は、一九九四年(平成六年)一〇月二五日、B出願の出願日を一九九三年六月二三日と訂正した旨の国際事務局からの通知を受けた。また、国際事務局は、一九九五年(平成七年)一月五日、原告の注意を促すため、「国内段階への移行を優先日から三〇箇月まで延期することを希望する場合には、優先日から一九箇月の期間が満了する前に、国際予備審査の請求を管轄国際予備審査機関へ提出しなければならない。出願人は、専ら自己の責任でこの一九箇月の期間をチェックする。」との通知を原告あてに発送している。

(原告の反論)

本件国際出願についての優先日は、以下の理由から、最先のC出願の出願日である一九九三年(平成五年)七月一五日というべきである。

原告が国際予備審査の請求をしたのは、一九九五年(平成七年)二月一日であり、優先日から一年七月以内である一九九五年一月二三日より前の日である。そうすると、本件国際出願の国内書面提出期間は、最先のC出願の出願日である一九九三年(平成五年)六月二三日から二年六月後の一九九六年(平成八年)一月一六日となる。ところで、原告が本件翻訳文を提出したのは、右国内書面提出期間以内である平成八年一月一六日であるから、その特許出願は取り下げられたものとみなされることはない。

したがって、被告が、その特許出願は取り下げられたとものとみなされるとして、本件翻訳文及び本件国内書面についてした不受理処分は違法事由が存する。

(一) 前記のとおり、米国特許商標局は、一九九四年(平成六年)七月一一日、本件国際特許出願の出願書のC出願の出願日を職権で訂正した上、A出願及びB出願について、優先権主張の申立の抹消又は日付の訂正を申請するよう命じた。原告は、一九九四年(平成六年)八月五日、原告米国代理人ケビン・E・ヌーマン名義で、米国特許商標局に対して、A出願に基づく優先権主張の申立は抹消し、B出願の出願日を「一九九三年七月一五日」と訂正する内容の本件応答書を提出した。米国特許商標局は「B出願の出願日の日付は国際出願日の前一年の期間内の日でない。」として訂正を求めたにもかかわらず、原告は、B出願の出願日をC出願の出願日と取り違えて「一九九三年七月一五日」と回答した。

以上の経緯に照らすならば、原告は、B出願の出願日について、応答書による有効な回答をしていないことが明らかであるから、米国特許商標局は、職権によってB出願に基づく優先権主張の申立を抹消し、本件国際特許出願の最先の優先日はC出願の出願日たる「一九九三年七月一五日」とすべきであった(規則四・一〇d)。

米国特許商標局の右措置に規則違反があるのであるから、本件国際出願についての優先日は、最先のC出願の出願日である一九九三年(平成五年)七月一五日というべきである。

(二) 仮に、米国特許商標局は、本件応答書を受領した一九九四年八月五日付けで、B出願に基づく優先権主張について、B出願の出願日を一九九三年六月二三日と訂正したことがあったとしても、右訂正は、規則に違反するものである。

米国特許商標局がした、いわゆる訂正許可は、規則九一・一fに基づいてされたものであるが、訂正許可は、出願人が訂正請求を行うことが必要である(規則九一・一d)。しかし、原告は、米国特許商標局に対し、訂正請求をしたことはない。したがって、米国特許商標局が訂正許可書を出願人に送付し、その写しを国際事務局に送付した行為は規則に反する違法なものである。

(三) 原告は、以下のとおり、最先の優先日はC出願の出願日たる「一九九三年七月一五日」であると信頼して、諸手続を行ってきたものであり、その経緯に照らすならば、この信頼は保護されるべきである。

欧州特許庁は、一九九四年(平成六年)一一月二日、最先の優先日をC出願の出願日たる一九九三年七月一五日とする国際調査報告書を作成し、原告に送付した。

原告は、これに対して一九九五年(平成七年)一月一二日、特許協力条約一九条に基づく補正書に最先の優先日をC出願の出願日たる一九九三年七月一五日と記載して国際事務局に提出した。原告は、一九九五年(平成七年)一月三〇日、欧州特許庁に対して最先の優先日をC出願の出願日たる一九九三年七月一五日と記載した国際予備審査請求書を提出した。

欧州特許庁が、一九九五年(平成七年)二月二〇日、原告米国代理人にあてた国際予備審査請求書受理通知には、最先の優先日としてC出願の出願日たる一九九三年七月一五日が記載されており、そこには「受理の日が優先日から一九か月経過している。」との注意欄にチェックが付されておらず、国際予備審査請求書が最先の優先日から一九か月以内に受理されたことを示していた。

欧州特許庁は、一九九五年(平成七年)四月二七日、右国際予備審査請求書に対して予備審査を行い、特許協力条約規則六六に基づく最先の優先日をC出願の出願日たる一九九三年七月一五日とする見解書を原告に発送した。原告は、一九九五年(平成七年)八月二五日、欧州特許庁に対して最先の優先日をC出願の出願日たる一九九三年七月一五日とする答弁書を発送した。

国際予備審査機関たる欧州特許庁は、一九九五年(平成七年)一一月八日、最先の優先日はC出願の出願日たる一九九三年七月一五日とする国際予備審査報告書を作成し、国際事務局に発送した。

(四) 行政手続法の趣旨に照らすならば、明文規定なくして「申請に対する処分」ないし「不利益処分」をすることは許されない。特許庁の定める「方式審査便覧」には、不受理についての定めがあるが、ここには、国際出願の国内移行のための翻訳文の提出手続に関する不受理については規定されていない。したがって、本件不受理処分は、法の根拠に基づかない処分であり、違法である。

第三  争点に対する判断

一  本件不受理処分の適法性について

1  前提となる事実及び乙一一号証によれば、以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(一) 一九九四年(平成六年)六月三日、原告は、米国特許商標局に対し、本件国際特許出願をした。その際、本件国際出願願書の第Ⅵ欄優先権主張に係る出願日欄に、A出願について「一九九二年六月二三日」と、B出願について「一九九二年六月二三日」と、C出願「一九九三年七月二五日」と、それぞれ記載した。出願日の記載については、B出願につき「一九九三年六月二三日」の、C出願につき「一九九三年七月一五日」の、それぞれ誤記であった(なお、A出願は正しい。)。

(二) 一九九四年(平成六年)七月一一日、米国特許商標局は、原告に対し、本件国際出願の願書のC出願の出願日を職権で「一九九三年七月一五日」と訂正し、その旨通知した。また、A出願及びB出願について記載された出願日が、本件国際出願の国際出願日前一年以内の日でないとして「優先日訂正または優先権主張抹消命令書」を送付した。

(三) 一九九四年(平成六年)八月五日、原告は、米国特許商標局に対し、本件応答書を送付し、米国特許商標局は同日これを受領し、また、国際事務局は、一九九四年(平成六年)八月三〇日にこれを受領した。

原告は、本件応答書において、「一九九二年六月二三日付けで出願されたA出願の優先権主張を抹消し、先の出願である一九九三年七月一五日付けで出願されたB出願及び一九九二年六月二三日付けで出願されたC出願がPCT第八条の規定を満たす申立てである」趣旨を主張した。しかし、本件応答書におけるB出願及びC出願の各出願日の記載は、いずれも、再度の誤記に基づくものであった。

さらに、原告は、本件応答書下段に、「審査官殿がこの応答に関して更に連絡を取ったほうがよいとお考えでしたら、下に署名の代理人・・・までご連絡下さい。」と追加記載した。

(四) 一九九四年(平成六年)八月二五日、米国特許商標局は、原告に対し、A出願に基づく優先権主張について、出願人の求めにより抹消した旨通知した。

一九九四年(平成六年)八月五日、米国特許商標局は、B出願に基づく優先権主張について、B出願の出願日を一九九三年六月二三日と訂正し、その後、右願書(第五用紙)の差替え用紙を国際事務局に送付した。

国際事務局は、右差替え用紙を、一九九四年九月一二日に受領したが、優先権主張欄の出願日に一部抹消線が引かれ、B出願の出願日が一九九三年六月二三日と変更されていることから、趣旨を明確にするため米国特許商標局あてに照会をした。

一九九四年(平成六年)一〇月一八日、国際事務局は、米国特許商標局から、B出願に係る出願日は一九九三年六月二三日と訂正すべきである旨の確認書を受領した。国際事務局は、B出願の出願日を一九九三年六月二三日に訂正し、原告及び国際調査機関に対し、出願人の請求によって右のように訂正した旨の通知を一九九四年(平成六年)一〇月二五日に発送し、そのころ原告はこれを受領した。

(五) 一九九五年(平成七年)一月三〇日、原告は、欧州特許庁に対し、国際予備審査請求書を提出し、欧州特許庁は、同年二月一日、これを受理した。

2  以上の事実を前提として検討する。

原告は、本件国際出願に当たり、当初、A出願、B出願及びC出願に基づく優先権主張をしたが、米国特許商標局から、A出願及びB出願についての「優先日訂正または優先権主張抹消命令書」が送付されたため、これに対する本件応答書を提出した。そして、<1>右応答書には、A出願については、優先権主張を抹消する旨が、B出願に係る出願日を訂正する旨が、それぞれ記載されていた(ただし、前記のとおり、右出願日には、再度の誤記があった。)こと、また、<2>本件応答書には、「審査官殿がこの応答に関して更に連絡を取ったほうがよいとお考えでしたら、下に署名の代理人・・・までご連絡下さい。」との追加記載があること、さらに、<3>後日、原告は、国際事務局から、B出願に係る出願日を正しい出願日である一九九三年六月二三日に訂正した旨の通知を受領した際、これについて何らの異議を表明したことはないこと等の事実経緯に照らすならば、原告がB出願については、優先権を主張する意思を有していたことは明らかである。

そうすると、本件国際出願は、B出願に係る出願日である一九九三年六月二三日及びC出願に係る出願日である一九九三年七月一五日を基礎とする複数の優先権主張を申立てる出願と解するのが相当であり、最先の優先日はB出願に係る出願日である一九九三年六月二三日である。そして、原告が国際予備審査の請求をしたのは、一九九五年二月一日であり、優先日から一年七月以内にはされていないから、本件国際出願の国内書面提出期間は、最先の優先日から一年八月である一九九五年二月二三日である。原告が本件翻訳文を提出したのは、一九九六年一月一六日であるから、本件翻訳文は提出期間を徒過して提出されたもので、その瑕疵は補正できないものである。したがって、本件翻訳文についてされた不受理処分は適法であり、本件翻訳文が不受理のためされた本件国内書面についての不受理処分も適法である。

3  これに対し、原告は、本件応答書におけるB出願に係る出願日についての回答は不合理なものであるから、米国特許商標局は、B出願に係る出願日については応答書による有効な回答がされていないものと扱って、B出願に基づく優先権主張の申立を抹消すべきであった旨主張する。

しかし、本件の事実経緯を前提とするならば、国際出願又は出願人が提出した書類中の明白な誤りは、これを訂正することができる規則九一.一の趣旨に照らしても、米国特許商標局が、B出願について出願日を訂正し、B出願についての優先権主張がされているものと扱ったことに、何ら違法はない。米国特許商標局においてB出願に基づく優先権主隈の申立を抹消すべき義務があったとする原告の右主張は採用できない。

また、原告は、最先の優先日がC出願に係る出願日である「一九九三年七月一五日」であるとの原告の信頼が保護されるべきである旨主張する。確かに、争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、前記第二、二、2(原告の反論)(三)記載のとおりの事実があったことが認められる。しかし、前記のとおり、原告は、国際事務局から、B出願に係る出願日を正しい出願日である一九九三年六月二三日に訂正した旨の通知を受領したが、これについて本件不受理処分に至るまで何らの異議も述べていないから、原告が仮に右のように信頼していたとしても、合理的な理由を欠くものであって、保護に値するものということはできず、したがって、原告の右主張は採用できない。原告は、国際事務局の右訂正通知は、PCT規則に違反したものである旨主張するが、前記のとおり、優先権主張を維持する原告の合理的意思が明らかになっている状況においては、仮に、右通知にそのような瑕疵があったとしても、右結論を左右するもとはいえない。

さらに、原告は、被告は明文の規定なくして本件不受理処分を行ったから、行政手続法及び法第一九五条の三の趣旨から本件不受理処分は不適法である旨主張する。しかし、特許庁の定める「方式審査便覧」では、願書及びその添付書類について「出願をすることができる時又は期間が特許法・・・により定められている場合においてその時又はその期間外に出願をしたとき」に受理しないものとする旨の定めが、願書以外の出願書類に準用されており、これには国際出願についての書類も含まれるものと解すべきであるから、原告の主張は理由がない(なお、被告は、本件訴えについて、訴えの利益がない旨主張する。しかし、本件不受理処分が有効に存在するか否かは、原告からの特許出願が係属している法律関係があるか否かという、現在の原告の法的地位に直接影響を与えるものというべきであるから、本件不受理処分の有効性を訴えにより争う利益が存するものというべきである。この点の被告の主張は採用しない。)。

二  よって、本件不受理処分は適法であるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)

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